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銅版画

アクアチント
A.基本のアクアチント

エッチングは線の表現ですが、アクアチントはの表現です。 銅版に松脂を撒いて、熱で定着させ腐蝕する、という大変七面倒臭いプロセスを踏みますが,グレーの調子は他の版種では得られない大変深く美しい調子になるのが特徴です。
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アクアチントの道具

松脂

「松脂」は、画材屋さんで買うと小石くらいの大きさの塊で売っています。

これを、「乳鉢」で細かく砕いて、細かい粉状にして使います。わざと細かくしすぎず、少し粒子を荒くして使う方法もあります。

松脂

乳鉢

画材屋さんでは、日本画の顔料を細かくする用途で売っています。

乳鉢

人絹で作った袋

砕いた松脂を、人絹などなるべく目の細かい布で作った袋に入れます。これを静かに振って松脂の粉を銅版に撒きます.私は袋状に縫った人絹を2重にして使っています。

アクアチント用袋

アルコール

銅版に定着させた松脂は、ホワイトガソリンでは落ちません。アルコールで落とす事ができます。

この写真は燃料用アルコールですが、消毒用アルコール、無水エタノール、なんでもかまいません。

アルコール

アルコールランプ

松脂を撒いた銅版を裏から熱するのに使います。

アルコールランプは火力が余り強くないので、小品はいいですが、大作では大変。大作の時は、火力の強いガスバーナーが早いです。私はアトリエの家庭用ガス栓に、理科実験用のバーナーをつないで使っています。

アルコールランプ
バーナー
バーナー

銅版をのせる台

銅版を裏から熱するときには、小品であれば「銅版つかみ」という道具で良いのですが、大きな版では片手で銅版を持って片手で火を扱うのは大変危険です。で、銅版を置く台をアングルを使って作りました。三脚のような物で、小さい版も乗っけることが出来るように針金を回しておくと良いでしょう。

アクアチント用銅版をのせる台

箱の中で松脂をまく

松脂をまく時に、部屋中が粉っぽくなっては不快です。なるべく箱の中で松脂をまくようにします。

箱の中に扇風機やふいごを入れて松脂を吹き上げる、「アクアチント・ボックス」というものがあればベターです。

松脂をまく箱

アクアチント

■松脂を砕く

乳鉢であらかじめ松脂を砕いておきます。

この時がんばってとても細かい粒子にしておけば、銅版のグレーの調子も繊細に。逆に、荒く砕くと松脂の粒々が見えるざっくりとした調子になります。

沢山砕いておいて、布の袋に入れておき、いつでも使えるようにしておきましょう。

乳鉢
乳鉢で松脂を砕く

■銅版に松脂を撒く

アクアチントはたいてい、エッチングで線を腐蝕したあとに行います。

まず、腐蝕が不要な部分は黒ニスで止めておきます。

その銅版に、先程砕いて袋にいれた松脂をむらのないように全面に撒くのですが、注意することは「撒きすぎないこと!」

松脂と松脂のすき間が腐蝕液で腐蝕するわけですから、沢山撒きすぎると、裏から熱したとき多少松脂が溶けるので、版面が全部べろ〜っと覆われてしまいます。
松脂は防蝕作用があるので、これでは銅版が全然腐蝕しなくなってしまいます。

また、あまりに少なく撒きすぎても、ボソボソした調子になってしまうので、適当なところを見計らう・・・・のが、結構難しかったり(笑)

小さな版だったら、袋を二三回大きく振る位で十分です。

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銅版に布袋に入れた松脂を撒く
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松脂の密度をチェック。
この場合、黒ニスが塗ってあるので
見やすい

松脂をまく
この状態では、松脂は銅版の上に
のっかっているだけで、
触ったり腐食液につけたり
したら取れてしまう

■銅版を裏から熱し、松脂を定着する

松脂はまだ銅の上に「のっかっている」だけなので、揺らしたりぶつけたりしないように注意して、銅版をのせる台(アングル)の上に銅版を置きます。

まず、アルコールランプをゆっくり動かし、銅版を全体的に温めます。

すると、熱したことで一部分の松脂が透明になってきます。その透明なところを周りに波及させるようにアルコールランプをうごかして、版全面の松脂が黄色から透明に変化刷るようにします。

版を斜めに見て、松脂の白い粉末が透明だったらもうすぐです。

透明になってからも、もう少しだけ全体にアルコールランプで熱します。

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■定着した松脂

小さい煙が出たあたりで熱するのをやめます。これで松脂の粉が銅版に定着し、水で洗っても取れないようになりました。

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熱することで松脂が銅版に溶けてくっついた状態。
あまりに熱しすぎると松脂が溶けて
版面全体覆ってしまうので、
松脂が透明になってしばらく、位の
タイミングが大切

■腐蝕

版がとても熱くなっているので、しばらく冷ましてから腐蝕液に入れます。

エッチングの線の腐蝕だと5分、10分単位ですが、アクアチントの面の腐蝕はかなりスピードが速く、塩化第二鉄に2〜3分もつけると、薄いグレートーンになります。

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松脂と松脂の間の
銅の露出した部分が
腐蝕する

■濃さの調節


6段階に腐蝕したアクアチント。
一番左はアクアチントをかけていない部分。

腐蝕液につけた後は、エッチングの工程と同じように、適当な濃さまで腐蝕したら止めニスで止め、もっと腐蝕したいところはまた腐蝕液につけて・・・・ を繰り返します。

松脂を「撒く量」で濃さが決まるのではなく、「腐蝕時間」で濃さ決まるのがポイントです。

ただ、アクアチントの場合、エッチングのように、銅版を見ただけで線の太さや濃さを判断出来ず、腐蝕の深さ、濃さが大変わかりづらいのです。

版面に松脂がひっついているわけですから、手でなでてざらざらしていても、松脂を取り去って見ると、実は全然腐蝕が足らなかった・・・・といった悲劇がよくあります。 こればっかりは、頼りは「経験」しかないです。

「ちょっと濃いかな???」と思うくらい十分腐蝕して、あとで磨いたり削ったりして調子を整えた方が賢明です。

■腐蝕し終わったら、アルコールで松脂を取る

十分腐蝕した・・・と思ったら、まず表面についている松脂を取ります。

松脂はアルコール(薬局で消毒用アルコールとして売っているもの)で溶けるので、まずアルコールで銅版を拭いたあと、止めニスを、灯油、白ガソリン、リグロインなどで取り去ります。

その後試し刷りをして、必要だったら調子を整えます。

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松脂を取り去った後の
銅版の状態

■調子を整える

さて、アクアチントの調子は、どんなに慣れた人でも、「腐蝕しすぎて真っ黒」または「全然思ったほど腐蝕してなかった!」・・・・・等々のトラブル続出なものです。

腐蝕してなかった!・・・・という場合は、ザンネンながらもう一度、止めニス、松脂散布・・・を繰り返すしかないです。

また、アクアチントは、サンドペーパーやスクレッパーで削ったり、バニッシャーで磨いて調子を整えることができます。

作例は、エッチングをした上にアクアチントを3〜4段階の濃淡をつけてかけた状態です。これだけでは、いわば4色のスクリーントーンを貼ったような状態です。そこからスクレッパーやバニッシャーで調子を削ったり、エッチングを更に描き足すと、トーンが無限大に豊富になります。

この場合、アクアチントをかけた後の作業はメゾチントの削りや磨きの作業に近いものになっていきます。下の「松脂の二度撒き、三度撒き」で密なグレートーンを作ると、更に調子の幅が増えてきます。

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3,4段階の濃さにアクアチントを腐食した状態
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アクアチントを削ったり磨いたり、
エッチングを描き足すことによって
何段階もの豊かなトーンになる

■松脂の二度撒き、三度撒き

1回目に定着させた松脂「だけ」を
アルコールで拭きとったあと、
もう1回松脂をまいて定着させて腐蝕する。

1回の松脂散布と腐蝕だけだと、松脂の小さい白い粒々の跡が見えます。(作例の、上半分の部分)

松脂の白い粒々の跡が見えなくなるように、もっとメゾチントのような漆黒の肌にするには、二度撒き、三度撒きの必要があります。

一回目の腐蝕後、アルコールのみで版の松脂を拭きとります。マスキングの黒ニスはアルコールでは落ちませんから、そのままもう1回松脂をまき、定着させます。その後、同じように腐蝕すると、作例の、青い丸で囲ってある下半分の部分のように、松脂の白いつぶつぶなめらかな調子になります。

3回ほど繰り返すと、メゾチントのように漆黒の表現が可能です。

■作風によってアクアチントのかけ方も変わる

とはいえ、絵柄によっては二度撒き三度撒きや、削ったり磨いたりして空間を出しすぎる調子はいらないという方も多いでしょう。そういう場合、わざと荒い粒のアクアチントをかける技法もあります。

右の作例は一回だけフラットなアクアチントをかけ、松脂の白いつぶつぶの跡を生かした例

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■完成!さあ、刷ってみよう!

刷りの工程は、刷ってみよう!を参照して下さい。

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